
ライター 森永 泰恵 | カメラ 岡崎 累 | 配信日 2023.3.29
来たるべきメンズ時代に先駆けてメンズヘアに注力
どのような方法でメンズヘアを打ち出したのですか。
僕が入社した2001年当時の『LIPPS hair』は男性より女性のお客様のほうが多かったのですが、ちょうどその頃、メンズヘアやメンズファッションの雑誌が次々に創刊されて、メンズヘアが盛り上がりつつある時代でした。
とはいえまだまだレディースヘアが全盛でしたが、「これからはメンズの時代が必ずやってくる」と確信し、雑誌を中心にメンズヘアを打ち出すことに力を入れたんです。
当時は今のようなSNSもなく、メンズヘアの情報を得るにはテレビや雑誌が中心でしたし、メンズ雑誌自体が目新しかったので、雑誌の効果は相当大きいものがありました。
しかし、人気も実力もある美容師さんたちがたくさんメンズ雑誌に出ていて、単にメンズ雑誌に出ればすぐスタイルがヒットする、お客様が来てくれるというわけではありません。
掲載されたスタイルがヒットすれば新規客が100人、200人来ることもありますが、ヒットしないこともあり、お客様の反応は本当にわかりやすくてシビアです。
日々のサロンワークの中でお客様が求めているものをしっかり掴み、それを意識して当てにいかないとスタイルはヒットしません。
そこを『LIPPS hair』ではとことん追求してメンズスタイルを打ち出した結果、集客にうまくつなげられたのだと思います。
僕自身もメンズ雑誌ブームに乗って、売上を伸ばしていきました。
女性のお客様も大切にしつつ、メンズ主体のコンセプトへ舵を切る
メンズオンリーサロンにはしなかったのは、なぜですか。
男性のお客様が増えるにつれ既存の女性のお客様からは「最近、男性が多くないですか?」と、めちゃくちゃ言われましたが、メンズヘアがヒットしたからといって女性のお客様をもう受け付けませんというのも違う気がしていましたし、むしろ男性のお客様が増えたことによって女性のお客様の居心地が悪くならないよう、細心の注意を払っていました。
逆に男性のお客様は美容室という元来、女性が主体の場所に行く覚悟を持って来ているので、隣に女性のお客様がいてもそれほど気にはならないものなんです。
『LIPPS hair』としてはメンズ雑誌だけでなく、女性のヘア雑誌にもスタイルを打ち出していましたから女性の新規のお客様も普通に来ていましたし、当時はメンズオンリーサロンにしようという方向性にはならなかったですね。
ただ、僕は技術、接客、サービス、すべてにおいて男性でも女性でも対応できるのですが、アシスタントはまだ未熟な部分があり、男性と女性、両方のお客様に完璧に対応するのが難しく、男性のお客様が一気に増えていったタイミングで、僕はメンズ雑誌にしか出ないことに切り替えました。
男性、女性、両方のスタイルを打ち出すとどっちつかずになり、セルフブランディングに多少のブレが生じることも理由の1つです。
すると、さらに男性のお客様が増え続け、女性のお客様に対してももちろん精一杯、対応させていただくのですが、会社としてはメンズ主体のコンセプトに変化していきました。
『LIPPS hair』がメンズに力を入れて成長していく過程をずっと見てきた20年来の女性のお客様からは、「結局、ほぼ男性になりましたね(笑)」と言われることもありました。
最新のトレンドを打ち出すことで、会社も常にアップデート
大人世代の男性ではなく、若い男性をターゲットとした狙いは何ですか。

客単価や来店周期を上げるために大人世代の男性をターゲットとするサロンが徐々に増えていますが、『LIPPS hair』は若い男性に向けて最新のトレンドを打ち出し、新規の方に知っていただいて集客につなげることを大切にしてきました。
若い男性の「カッコよくなりたい」という願望に応えることで会社そのものが常にアップデートし続けられると考えているからです。
若い男性を集客し、顧客になっていただければ、お客様とスタイリストが一緒に歳を重ねていきます。
最初から大人世代を集客しなくても、いずれ大人になりますよね。
『LIPPS hair』としては若い男性のトレンドを打ち出し続けていくのですが、顧客に対しては年齢やその時々のライフスタイルに合ったスタイルを提供することが求められます。そのためにスタイリストも勉強を重ね、技術を磨き、お客様と共に成長できると思っています。
カット技術にこだわることが顧客化につながる
顧客化のためにどのような工夫をしていますか。

今の時代、SNSでバズって当たれば一時的な集客はできるのですが、若い男性向けのトレンドヘアしか身についていないと、2回目、3回目の来店時にそのお客様のご希望やお悩みなどに寄り添った提案ができず、失客してしまいます。
顧客化するためには接客やサービスのクオリティ向上も大事ですし、なにより技術レベルを上げることが肝心で、結局はそこに尽きると思っています。
特にカットはそのまま頭のフォルムに直結するのでとても重要です。
学生さんの場合はヘアスタイルを頻繁にチェンジする方も多いのですが、働き始めると前回と同じスタイルをオーダーされる方が増えてきます。
同じスタイルを同じクオリティで切り続けるスキルがとても大事で、1カ月以内の周期で来店されている方であれば、1・2ミリ程度のちょっとした長さの違いにすぐ気づいてしまうんです。
なので「今日はちょっといつもと違ったな」「今日は雑にされた気がする」ということが原因で失客してしまいます。
それくらい慎重に、丁寧に、確かな技術を提供することが大切です。

矢崎由二(ヤザキ ユウジ)
山梨県出身。窪田理容美容専門学校卒業。都内サロンを経て2001年、『LIPPS hair』に入社。オリジナルカット技法「フレームカット」のマニュアル作りに尽力。2023年1月より、ハサミを置いて後進の指導に専念。クリエイティブやコンテストへの出場、ヘアショーへの出演など多方面で活躍中。

LIPPS hair
メンズヘアにいち早く力を入れ、存在感を高める。現在25店舗、従業員400名を超える規模に成長。2015年、「リップスアカデミー」を開校し、教育システムを抜本的に改革した。また、オリジナルプロダクツの開発やメンズアイブロウサロンの展開など、メンズビューティブランドへと進化し続けている。
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