裏テーマは「スタッフを1つの方向性に向けること」
2022年11月に開催されたTWBCでヘアショーに出演されました。どんなことを感じられましたか。
出演させていただく機会を頂戴し、本当にありがたい経験をさせていただきました。
会場自体がすごく活気がありましたし、来場された方々にとっても美容師の熱い想いを肌で感じられる素晴らしい空間だったのではないかと思います。
最高のヘアショーをお見せするのはもちろんですが、僕は今回、「スタッフを1つの方向性に向ける」という裏テーマを掲げて挑みました。
コロナ禍もあってスタッフのマインドがしだいに「個」に傾き、辞めた人もいましたから、今回のヘアショーは希薄になりがちだった人と人とのつながりを改めて構築し直す貴重な機会と捉え、全員で1つのことに向かって突き進む空気をつくることに注力しました。
みんなで1つのことに向かって何かをやるということ自体が少なくなっていますから、終わった時の心地よい達成感を若いスタッフにも味わってほしいと思ったんです。
また、今いる環境を大事にしてほしいという思いもありました。
僕が若い時、まだヘアショーには出させてもらえず見る側だった頃、『DADA CuBiC』のロゴがステージのスクリーンに出たのを見ただけで、自分は何もできなくてもすごく誇らしく、すごくいい環境にいることを実感しました。それを新しいスタッフにも感じてほしいと思いました。
ヘアデザインで勝負していることをいちばん伝えたかった
では「表」のテーマはどんなことでしたか。

『DADA CuBiC』はヘアデザインで勝負しています、ヘアデザインをいちばん大切にしています、という想いを伝えることが「表」のテーマでした。
ヘアに目が行くようあえて余計なものは全部削ぎ落とし、ファッションにも女性像を感じさせる要素を入れずに、究極にシンプルな形でヘアデザインを見せたいと思いました。
ヘアショーには流行りがあり、最近はだんだん個性が感じづらくなってきたように思います。
音や光、映像などを駆使してステージを盛り上げる演出が流行った時期もあり、それはそれで華やかで素晴らしいのですが、僕たちは今回、もっとヘアデザインそのものにフォーカスしたステージをつくりたいと思ったんです。
最初、華やかなシーンから始まり、とにかくミニマムに削ぎ落としていって、最後に残るのはアバンギャルドなヘアデザイン、という構成にしました。
戦争や物価上昇など、世の中が不安定になると安心感やうけがいいものが好まれるように思えます。
僕はそんな先の見えない時代だからこそ、いつかまた戻ってくるであろうアバンギャルドなヘアデザインを今こそ表現することが必要だとも感じていました。
これがもう1つの「表」のテーマです。
コロナ禍で様々な活動が制限され、思うように進化したり発展したりできない日々が続きましたが、僕たちのヘアショーを見たことによって美容師さんたちの心を動かすことができていたらいいなと思います。
成果を急ぐな。毎日の積み重ねが将来の自分をつくる
若い美容師さんへアドバイスをお願いします。

美容師という仕事はコロナ禍でも比較的影響を受けにくい業種でしたし、なにより人の心を豊かにできる仕事だと思っています。
思いやりややさしさを大切にしつつ、ときには強い心を持って、自分が選んだ仕事にエネルギーを注ぎ込むことが大切です。それによって10年後、20年後の自分のあり方が変わってくると思います。
毎日の積み重ねが将来の美容師像をつくっていくわけですから、成果を急いではいけません。
アシスタントの頃はちょっとした差が大きな差のように感じやすいものです。
たとえば他サロンにいる同学年の子はもうカラーを塗っている、と聞くと自分の状況と比較してとても遅れているように感じたりします。
でも、自分が今いる環境を大切にし、自分を信じてコツコツとがんばっていけば、スタイリストになってから自分より前にいたはずの同学年の子を追い越すこともできます。
人と比べる時期も大事だと思いますが、それよりも自分が今やっていることに対して自信が持てるようになることのほうがもっと大事です。
焦らず、着実に本物の美容師を目指して前進してほしいです。
もっとヘアをデザインすることにエネルギーを注ぐことが必要
美容業界はどうあるべきだとお考えですか。
美容業界の多様化、二極化が進む中でお互いを認め合い、理解し合うことはとても難しいですが、僕はやはり本物志向の業界を目指したいです。
本物を目指すことの大切さを僕はアカデミー(「D.D.A.」。DADA DESIGN ACADEMY)でも伝えたいですし、色々なセミナーでもそういう話をさせていただいています。美容業界はやはり「人」が財産ですから、教育が本当に大切です。
美容師という仕事の価値、そして、デザインの価値を高めていきたいですね。
TWBCのヘアショーもそうですが、クリエイションにおいても僕はいつもヘアデザインで徹底的に勝負するということを貫いています。
撮影においては、カメラマンさんやファッションスタイリストさんなど各分野のプロフェッショナルの方たちと共に作品をつくりあげることは大切なことですが、そこに頼りすぎてしまうのは違うのかなと。
そういう方たちと同じくらいしっかりとした仕事ができる美容師としての存在感が重要で、美容師が「ヘアをデザインする」という仕事に対してもっともっとエネルギーを注ぐことが、美容業界の価値を上げるために必要なことなのではないでしょうか。
ファッションデザイナーが服をデザインし、人をつくり、時代の空気感をつくるように、美容師もデザインすることの本質を大切にして、そうありたいですね。

古城 隆(コジョウ タカシ)
1980年、大分県出身。大村美容専門学校(現・大村美容ファッション専門学校)卒業。地元のサロン1店舗を経て2000年、『DADA CuBiC』に入社。2005年より「D.D.A.」(DADA DESIGN ACADENY)の講師に就任。2019年、2021年JHA大賞部門グランプリ受賞。

DADA CuBiC
1997年、東京・原宿で創業。カット、カラーのスペシャリストが在籍し、高い技術力とセンスで多くのお客様から支持を集める人気サロン。
2003年、「D.D.A」が開校教育にも力を入れ、業界の発展に寄与している。
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