「シャンプー、気持ちいいよ」が最初の感動
理容師になってよかったと思うことは?
自分のステージによって異なりますが、一番最初に「理容師になってよかった」と思ったのは、最初に入らせてもらったお客様から「シャンプー、気持ちいいよ」と言われた時です。次は、初めてカットに入った時。その次は先輩に褒められた時でした。その後は、育てた後輩がカットデビューできた時とか、前の店長がいなくなって売上がどん底まで落ちてから、その時のメンバーで店舗売上1位を達成した時。この時は最高にうれしかったですね。奮発して、少し値が張る鉄板焼きでしたが、スタッフとその家族も含めてご馳走しました。経営者となった今は、スタッフの成長や信頼関係を築けたと感じた時が一番うれしいです。理容師になってから、様々なタイミングで感動し、「理容師になってよかった」と感じています。
自分の夢というより、スタッフの夢を叶えたい
次にやってみたいことは何ですか?
東京には増やしてもあと1〜2店舗でいいかなと思っていますが、沖縄、北海道、ハワイにも出店したいですね。別会社にしてやる気のある子に任せたいと考えています。僕は新人の頃、自分の夢を絵に描いてみてと言われた時、ハサミを持ってアメリカへ行き、無料でカットしながらハーレーでアメリカを横断するという夢を描きました。さらに、倉庫を買ってそこにお気に入りのオープンカーを入れ、バイクも飾り、倉庫内にカウンターを作ってハンバーガーやジャンクフードを出す…という夢も。当時はみんなに笑われましたが、「THE BARBA TOKYO DINE」には車とまではいきませんでしたがバイクを飾り、ビリヤード台をテーブルにしてハワイアンダイニングを併設しました。少しずつではありますが、夢が叶っています。子どもの頃に憧れたアメ車も、今では複数台所有しています。東京以外への出店は、地方出身の子が帰る場所を作るという意味でもあります。僕は人生に対してもスタッフに対しても有言実行がモットーで、スタッフもそれをわかってくれていると思うので、これからは自分の夢というよりスタッフの夢を聞いて、一緒に叶えていけたらいいなと思っています。
やると決めたら、最後までやりきってほしい
若い世代の方たちへのメッセージをお願いします。
理容業界は雑誌やSNSで見ているのと実際に働くのとでは全然違います。「楽しい」だけでは続きませんが、入ってすぐ辞めてしまったり、義理を通さない子が多いのも残念なことだと思います。僕も自分のスタイルを貫き通していますが、それにも順序が必要です。自分で一度やると決めたら最後までやってみないとわからないし、途中で投げ出してしまってはもったいないです。やりきる根性があるなら、理容師は絶対にいい職業だと思います。色々な人に出会えて、色々な人の考え方を聞いて勉強させていただけるにもかかわらず、最後は笑顔で「ありがとう。また来るね」といって貰えるだけではなく、さらにお金までいただける。こんないい職業は他にないと思います。こだわりややる気、努力と根性があれば、一生続けられる仕事です。さらにそれを誰かに伝えて世代交代もできます。辛いこともありますが、その分チャンスもあります。理容師は稼げないと思われているかもしれませんが、大金持ちになるのは難しくても、やる気次第では小金持ちくらいにはなれます(笑)。誇りを持ってやればカッコいい職業です。社長になると現場から離れて経営に専念される方もいると思いますが、僕は誰よりも店に出て仕事をしています。新規客こそ入りませんが、オーナーになってからも人一倍サロンワークを大切にしています。現場でお客様やスタッフと接している時間が本当に大事だと思っているからです。うちには女性のスタッフもいますが、努力次第では、男女関係なく店長になるチャンスもありますし、バリバリやっている女性スタッフも沢山います。僕は理容師を辞めたいと思ったことは一度もありません。男性であっても女性であっても、一度足を踏み入れたからには、最後までとことん、突き詰めてほしいと思います。

渡部智寛(ワタノベトモヒロ)
THE BARBA TOKYO代表。
1982年生まれ。北海道中川郡音威子府村出身。北海道理容美容専門学校卒業。2013年に「THE BARBA TOKYO」を設立。現在、東京都内に3店舗を展開。また、dunhillとのパートナーシップにより、銀座の「dunhill BARBER」の運営も行う。確かな技術とこだわりの世界観で国内外に多くのファンを持つ。

THE BARBA TOKYO
「男性がおしゃれできる空間」「大人の上質な時間」を提供する、アンティークを基調とした内装がひと際目を引く。高い技術とオールドアメリカの世界観で、スポーツ選手から政治家まで幅広い支持を集めている。