小松 敦さん (HEAVENS)

故郷の山形県から上京し、最初に入ったお店で一度は技術者になりながら、更なる上を目指して人気店の扉をたたいた小松さん。ひょんなことから独立することとなり、現在では3店舗を展開するオーナーの傍ら、“リアリティブ”の第一人者として、全国を飛び回る人気美容師となった小松さんの、先進的な考え方やゆるぎない信念をお聞きしました。

ライター 森永 泰恵 | カメラ 岡田 誠 | 配信日 2018.9.27

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地元の女性美容師さんの言葉に後押しされて美容師を志す

美容師を志したきっかけは何ですか?

小松 敦さん (HEAVENS)

将来を考えていた高校2年生の時、子どもの頃から手先が器用だった僕は友人の髪を切ったりしていました。結構気に入ってくれて「うまいじゃん」と言われ、その気になったことがきっかけです。僕の生まれ育った街は山形県鶴岡市という小さな街なのですが、当時、コンプレックスでもあるクセ毛を直したくて色々な美容室に通ってみました。そんな中でお世話になっていた女性の美容師さんに「美容師はいい仕事だよ」と言われたんです。それから美容師という仕事に興味を持ち始めました。当時はバーバーの住み込みもいいなと思ったのですが、色々調べていくうちに美容の世界に様々な可能性を感じ、美容師を目指すために東京の美容学校に行くことにしました。美容師は、組織とか会社という形ではなく、自分の力で稼げるということに魅力を感じましたね。

10年はがんばらねばと覚悟を決めて挑んだ修業時代

働き出してからは、どんな思いでいましたか?

小松 敦さん (HEAVENS)

10年間はしっかりがんばらなくてはと思っていました。技術者とはそういうものだと。今みたいに美容師はおしゃれでカッコいいという価値観があったわけではなく、「手に職」みたいな発想で入りましたから。美容学校を卒業して働き出してからは、僕はこれで一生メシを食っていけるのだろうか?という不安はちょっとありましたね。でも10年間はがんばると決めていたので、余計な事はあまり考えないようにしていました。最初に入ったお店には2年半くらいいて、そこで基礎を習得して技術者になったのですが、なった途端、もっと勉強したいという気持ちに火がついたんです。色々な講習で勉強していくうちに、せっかく東京に来たんだからもっと上を目指したいという欲が出てきて、ゼロからもう一度自分を作りたいという思いでSHIMAに入りました。そこにはエネルギーのある先輩がたくさんいて、僕の生活は激変しました。朝早く行って練習して、営業はパンパンで、営業後はまた夜遅くまで練習して、みたいな。こだわる部分が違う、ゼロからやらせてもらうということに意味がありました。入って1年でデビューし、11年在籍しました。僕の礎を築いた11年間だったと思います。

たまたま独立する機会に恵まれた

いつかは自分のお店を…という思いはありましたか?

HEAVENS

具体的に考えたことはなかったです。漠然とはありましたけどね。東京に出てきて10年くらいで技術を身に付けて、それで故郷に帰って錦を飾るのが普通だろうと。でも、自分が成長することが楽しく、厳しいこともうれしいことも東京だから体験できる、という思いもありました。デビューして2年後には店長になり、色々な役割が増え、人を育てることの楽しさもあり、撮影やセミナーもやらせていただきました。それは自分1人で作れる環境ではないじゃないですか。この組織をもっと充実させて、もっとより良くしていくことに没頭していました。だから、独立を考えていたわけではないんです。たまたま会社の中で組織変更があり、渋谷のお店を一旦閉めることになった時、そのお店をどうするかを考えるプロジェクトを僕も担当していたのですが、一生懸命がんばっていたら、「それだけがんばっているのなら、小松君がやればいいんじゃない?」という話になったんです。「えっ!?」っていう。僕ももう30歳を過ぎていましたから、将来を考えなければいけない時期でしたが、具体的な考えはありませんでした。それならこういう機会にチャレンジしてみようと思い、独立して居抜きで引き継ぐことにしました。

自分のビジョンを確立するのに、1~2年かかりました

 オーナーとなり、どのような壁にぶつかりましたか?

HEAVENS

独立していちばん不安になったことは、上がいないということです。僕がダメだったら下はみんなダメになるわけです。つまり僕がどう成長するかが大事だと考え、とにかく本を読みましたね。独立前後は経営本も読みましたが、歴史小説から海外の名作まで、今まで読んだことがなかった名作を片っ端から読み、それがとてもいい刺激になりました。僕自身はこういう店にしたいというビジョンが明確にあったのですが、スタッフ全員にそれを浸透させ、理想の店としての方向性を整えるのに1~2年はかかった気がします。どういう理由であれ店を出す以上は揺るぎない信念がなければいけない。東京に出てきて店をやるからにはそう簡単には帰れない。そのくらいのつもりでやらないと、と思っていました。渋谷は力のあるサロンも多いので、そういう中でしのぎを削るのは大変だろうなと思い、背負ったものが大きいなと感じていました。最初の1年目はそれまでの余力でやっていた感じですが、徐々に自分固めとスタッフ固めができてきて、オープンから5年目で2店舗目を出しました。借金もしましたが当時はのんきになんとかなると思っていました。今考えると背中が寒くなるような数字ばかりでしたね。紆余曲折といいますか、自分でもよくやってきたなと思います。

雑誌に1/6ページで掲載されたら、500人が来店!

集客や宣伝はどのようにされてこられましたか?

一貫して今も変わっていませんが、集客はあまりしていません。独立した当時は、一般誌に出るのが最大の集客というところでしょうか。最初のうちは食べていくくらいはお客様がいたのでなんとかやっていけたのですが、さらにフロアを満杯にしてスタッフを雇用して、本当に自分がやっていきたいサロンを作っていくために、まず業界誌2誌に働きかけました。すると驚くほど大きく載せていただけたんです。うれしくてテンションが上がり、一般誌にも作品を持って回りました。ところが半分くらいは門前払いで。でも、若者向けの女性ファッション誌のいちばん後ろのページに1/6ページくらいで掲載していただいたら、それを見て1カ月で500人来たんですよ!世の中って捨てもんじゃないなと思いました。編集部の人に聞いたら、前のほうのページで大きく出ているサロンでもそんなの聞いたことがないと。それ以来、毎月のように300人くらい来てくれて。うれしかったですね。それから撮影依頼をたくさんいただけるようになりました。毎週、毎朝、撮影していましたね。雑誌に出ることは、僕の中では集客というよりお店のブランディング=店を知ってもらうという感覚でした。自分たちの世代にとってメディアといえば雑誌、紙媒体は最高でした。雑誌によっては中ページの作品から表紙を決めるということがあり、僕は結構表紙に選んでもらったんですよ。“表紙マスター”です。当時は有頂天でした(笑)。あと、うちは20年以上前からホームページを持っているんです。早いでしょ!美容師がカメラを持つ時代じゃない頃からカメラを持ち、自分たちで作品を撮って載せたりしていました。作品撮影を重ねることでモデルの良いところを引き出す方法を学んだのだと思います。色々な機種のカメラを使いましたが、それらは今でも大事にしています。

小松さんのカメラ

ナチュラルでもやりすぎでもない、それがリアリティブ

一般誌と業界誌では発信する作品は違いますか?

美容師の中には業界誌はクリエイティブヘア、一般誌はコマーシャルヘア、と分けている人もいましたが、僕はデザインで食べていくという考え方をしていたので、両方を区別していませんでした。それがのちにリアリティブという言葉になるわけです。そのスタンスが僕の特長となり、周りから認められて色々な仕事をいただけたのだと思います。今でもクリエイティブスタンスとサロンワークスタンスの違いについて整理がついていない人は多いのではないでしょうか。僕はどちらかというとサロンの仕事がいちばん大事で、クリエイティブをサロンワークのフラストレーションを爆発させる場にするのは良くないと思っています。単なるナチュラルでもないし、やりすぎてもいけないし。絶妙なヘアデザイン。それがリアリティブにつながります。独立した頃、すでにそういう考えでした。リアリティブという言葉になるずいぶん前のことです。自分だけではそういう整理の仕方はできなかったと思いますが、ジャーナルの方や美容師の方などから注目され、それに応えていくうちに、だんだん考えがまとまってきたのだと思います。

小松さんの作品

その人にしかないことを見つけて生かすのが、本当の似合わせ

 ヘアデザインを作る上で大切にしていることは何ですか?

小松 敦さん(HEAVENS)

月並みですが“似合っていること”は絶対です。似合っているというのはどういうことかというと、人を見る目があるかどうかだと思っています。普通に似合っているという感覚は、たとえばトレンドが入っているとか、バランスよくできているとか、そういうことを見がちだと思うんですが、“本当に似合う”というのは、その人にしかないことを見つけることだと思うんです。ネガティブに感じている髪質の問題とか、年齢的な問題などは、逆にその人しか持ってないものだから、それを生かせばいいわけです。それを踏まえてヘアを作れば、その人に絶対似合うものになるんです。髪は僕とその人で作るもの。だから美容師はその人の良さや美しい部分だけではなくて、コンプレックスな部分も含めて探してあげることが大事なのではないかと思います。そういうことを僕らは永遠に追求していかななければいけません。どうやって人の個性を見つけるか、これに尽きます。あとはセンスを磨くことです。好奇心を持って色々なことを経験し、常にアンテナを張り巡らせておくことが大事です。

コンテストは、評価されることで何かを得られる場

コンテストの審査員を務められることが数多くありますが、コンテストに参加する意義はどこにあると思いますか?

自分の才能とかクリエイションの開拓もありますが、評価されることによって自分に足りないものや自分が優れているところに気付けることだと思います。何の仕事をしていても評価は受けるじゃないですか。好きなことをやって成立するわけではなくて、評価を得て初めて仕事になるわけで、評価がお金やエネルギーを生むのです。ですから評価は避けられません。僕も作品を作るようになって編集の方たちと話をしていく中で、評価を受け、こういう風に人と違うんだ、これが自分の良さなんだと気づいたことがたくさんあります。その気づきを得るためにコンテストはあるのではないでしょうか。全国でコンテストに参加している美容師は全体の1割以下と言われています。でもその人たちはやりがいを見つけているし、続けることに意義があると思うんです。単純に1年に1度のお祭りの人もいれば、義務でやっている場合でも、評価されることによって自分が何かを得るというのは必ずあります。結果として何か受賞する、しないに関わらず、自分のステップにしてもらえたらなと思います。

小松さんの作品

25年続けてこれた理由を大切にしたい

美容師を辞めようと思ったことはありますか?

ないですね。ただ、美容室を経営する難しさは感じています。僕のようにお金に執着がない人間は、経営者としてダメなんじゃないかと思うこともありますが、25年お店を続けてこれた理由はあると思うので、そういう部分は大事にしたいと思っています。経営に関しては誰かがやってくれるのならやってほしい、経営者は辞めたいなと思うことも(笑)。経営者になったらハサミを置くんだろうなと思っていましたが、その先が見えなかった。不安というわけではないですが、どうしていくべきかは、結局美容師を続けていく中でしか答えは見つけられないと思ったんです。僕はたまたま自分もがんばって仕事をしなければいけないくらいの、ちょうどいい規模というか、すべてがちょうどいい感じの環境に身を置くことができました。もしどんどん出店していたら違う道になっていたかもしれません。経営に専念していたら、お金をかけた集客などもやらねばならず、自分が思い描くものと変わっていたかもしれません。もちろん店を成長させていくことは大事ですが、今は本当にすべてがバランスよく回っているように思います。

小松 敦さん(HEAVENS)

地域に根差したサロン展開がこれからは大事

今後の理美容業界はどのように変化するとお考えですか

技術者が働く上で、それ相応な設備を整えて事業をやっていくとなると、値上げせざるを得ないようになると思います。きちんとした対価を経営者も従業員も、お客様にも認識していただかないと、美容という文化は発展しなくなる可能性がある。だからこれからは、理美容師の技術やサービスの価値をもっと高めて、相応な金額をいただくべきだと思います。明らかに人口は減っていきますし、集客も限界が出てくるわけです。これしかいない中でシェアし合うわけですから。人材確保も大きな課題です。そういうことを考えた時、これまでHEAVENSは渋谷や表参道で展開してきて、ほとんどのお客様が電車でわざわざ来ていただく店というブランディングをしてきましたが、僕が最初に働いた店のように地域密着な店もいいなと思うようになり、住んでいる人や街が素敵なエリアに「MuNi」を出しました。そういう流れもひとつのチャレンジですし、その地域に根差した人、ヘアデザイン、サロンの存在感…これからはそういうことを追い求めていくべきなのではないかと感じています。その地域の水準を上げていくことにつながるような仕事ができるように考え、実行していきたいです。

HEAVENS

自分で選んだ道を惚れ込み、美容を好きでいてほしい

若い理美容師さんにメッセージをお願いします

小松 敦さん(HEAVENS)

“自分が信じたものを迷わずあきらめるな”ですね。本当に自分には向いているのかとか、一番になれるのかとか、不安なことはあると思うんです。でも別に一番じゃなくたっていいんですよ。一番という数字とかそういう競争の中での評価という意味ではなくて、自分をまっとうすることがすごく大事なので、そうすればそれぞれ個性や価値のある仕事ができるはずです。だから徹底的に自分を育て、そういう気持ちで仕事をしてほしいなと思います。自分の人生を人と比較してはいけないと思います。人をうらやんでも仕方ありません。自分で選んだ道だからこそ、そこに惚れこんで、あきらめずに自分の生き方を好きになり、美容が好きでいることがすごく大事だと思います。なかなか認められない人もいますが、それは何かが足りないから。自分本位だったりとか、リアルにクリエイションするのは誰のためなのか忘れているんです。僕らは人ありき、相手ありき、地域ありきの仕事なので、独りよがりになっている以上は認められません。自分がどの人たちにどういうことを伝えていきたいかを丁寧に考えるべきだと思うんです。あきらめないこと、続けること、美容を好きになること。がんばってもがんばっても、それでも美容が好きになれないのだとしたら、それは別の道を探せばいいんです。僕は美容が好きな人だけ残ってほしいと思っています。

小松 敦さん(HEAVENS)

小松 敦(コマツアツシ)

HEAVENS代表。山形県出身。1993年に「HEAVENS」をオープン。現在、表参道に2店舗を展開。また、2017年1月に「MuNi」を東京・代々木上原にオープン。アグレッシブなヘアデザインで注目を浴び、1999年JHAロンドン審査員最優秀賞、2000年JHA大賞部門準グランプリ受賞。2018年1月、「似合う髪 美しい髪 新しい髪~ビヨウシニオクルコトバ~」(株式会社女性モード社刊)を出版。サロンワークを中心に一般誌や業界誌、ヘアショー、セミナーなど多方面で活躍中。



Facebook:小松 敦

HEAVENS

HEAVENS

◇IMAGE CHANGE PROJECTというコンセプトのもと、本当に似合うヘアデザインを追求。小松氏が確立した「ツーセクションカット」を軸に魅力的なヘアを生み出し続けている。お客様1人ひとりに向き合いながら、ライフスタイルに合わせたヘアデザインを発信。


https://www.heavens.co.jp/

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